自分の組織を信頼せよ

●イーストマンは、謙虚さと勇気を備えた独創力のある発明家、技術者だったが、自分の組織を信頼し、部下と相互信頼によって結ばれることができた点で、すばらしい経営者であったといえる。

 

●イーストマンが、どんなに部下と強い信頼関係を樹立していたかを物語るエピソードがある。イーストマンがアフリカへ狩猟旅行に出かけたときのことだ。

 

●大草原を部下のハンターと一緒に歩いていると、一頭の巨大なサイが自分のほうに突進してくるのが見えた。イーストマンは動
じることなく、カメラを構え、シャッターを切った。

 

●部下は、社長めがけて突進していくサイを、十メートルほど離れたところから撃った。サイは落ち着き払ったイーストマンの三
メートルほど前で倒れた。ある人に、「自分の危険に気がついたか」と尋ねられたとき、イーストマンは引用の言葉を返したのである。

 

●この信頼の管理は、部下のやる気をかきたて、組織を活性化させた。

 

●これに似た話が日本にもある。ソニー厚木工場長になった小林茂は、工場の食堂に売り子を置かないで、無人スタンド式にできないかと思った。みなが相互信頼に基づいてやれば、必ずうまくいく。それに気分がいい。小林はそう幹部たちに提案した。

 

●ところが、幹部たちは申し合わせたように反対した。部下を信用していないのだ。指導者である自分たちと従業員を異なる人種のように扱っているように思えた。小林は、幹部たちを諭し、従業員たちに食堂の無人スタンド化を提案した。従業員たちはみな賛成した。

 

●実際にスタートしてみたところ、幹部たちが危惧したようなことは何も起きなかった。相互信頼が成り立ったのである。それば
かりではない。信頼されている、という意識は、従業員の一人一人の士気にプラス作用した。

 

●信頼の管理というものは、現実の行動で示されない限り、成功しないものだ。部下は信頼されることを願っている。