夏の火鉢は冬に役立ち、ひでりの傘は雨降りのときに役立つ
●人使いの名人である黒田如水が、その妙諦を息子の長政に教えた言葉である。家康が江戸に幕府を開くと、戦いに明け暮れた武将たちも、功名によって得た領国の経営に力を入れるようになった。
●時代は創業から守成に向かっていたのである。守成になれば、人使いのうまさがものをいうようになる。
●そこで心ある武将たちは、息子にその極意を伝えるようにしたのである。
●肥後熊本藩祖の細川忠興もそうした一人である。忠興はあるとき息子をひざもとに呼んでいった。
「家臣の者たちは、たとえてみれば将棋の駒のようなものだ。駒はそれぞれの役割を果たす。桂馬の頭に歩をつけると、桂馬はその歩を取ることも逃げることもできない。だが、一枚の駒をへだてて筋かい飛びをする働きは、飛車や角さえも及ばない力がある。
人もそれと同じである。一役は不調法でも、他のことで役立つことがある。何もかも一人で片付けられる者は百人のうち一人もいない。下々の者には、欠点のない者はいないと昔から申している。主君となるべき者は、このことを心にとめておかねばならない」
●二人の武将とも、言わんとするところは同じである。人はそれぞれ得意とするところを異にする。そこを見抜いて使えというのである。
●現代の人使いの名手も、このツボを心得て実践している。倒産寸前の企業を次々と再建させた来島グループの総帥坪内寿夫は、再建を頼まれた企業の社員の能力を見抜いてうまく使いこなす。
●「どんな人にも、得手・不得手がある。従業員の適性を正しく把握し、その人に合った部署につけてやるのは、経営者に課せられた義務である。それは、その本人のためにもなり、ひいては会社のためにもなる」
●人は自分が得意とする領域に出会うと、すばらしい働きぶりを見せるものである。
●土光敏夫も東芝の再建に手腕を発揮した名経営者で、人使いのうまさも群を抜いている。
●「どんな人にも必ず一つぐらいは長所がある。その長所を活用するのだ。長所をどんどん伸ばしてゆくと、短所はだんだん影をひそめてゆくものなのだ」
●事業再建という起死回生のドラマを多くの部下を使って成功させてきた経営者の言葉には、重厚な迫力がある。