俸禄は勝ち戦のときには役に立つが一言の情をかけてある者でなければ負け戦では、役に立たない
●タイトルの言葉は戦国乱世を秀吉、家康に従い、幾度もの修羅場を切り抜け、佐賀藩を築いた武将・鍋島直茂が言ったものである。直茂は苦境の中で踏みとどまってともに戦ってくれる部下の大切さを、痛切に感じていた。
●これと似たようなことは秀吉に武勇と知略を恐れられて東北へ追われ、会津藩主になった蒲生氏郷もいっている。「第一に家中に情を深くし、知行を賜ること。知行ばかりで情がなければ、事はできない。情ばかりで知行がなくては、またなんにもならない。知行と情とは車の両輪、鳥の両翼である」と。
●氏郷の指摘するところは平時の場合である。直茂は、この「車の両輪」「鳥の両翼」としてバランスの取れていたものが勝ち戦と負け戦という戦況の違いによって大きく変わる点を、経験則から認識したのである。
●勝ち戦のときは、俸禄をふるまって兵を募り、味方の数をどんどんふやし、軍勢の圧倒的優位によって敵を破ることができる。
●企業活動でいえば、成長期という勝ち戦のときには、給料を高くし、従業員を増やし、事業を拡大することができる。
●だが、負け戦に転じたときは、様相は一変する。俸禄という待遇のよさだけにつられて集まってきた者たちが、我先にと戦線から離脱し、軍勢は急激にへってたちまち総崩れになってしまう。
●企業活動においても、経営が左前になり、事業を縮小せざるを得なくなると、退職者が増え、最低必要人員さえも確保できないケースが出てくる。そうなれば、再建できるはずの企業も倒産してしまう。
●低成長、減量経営が言われる今日は、いわば程度は軽いものの総体的に負け戦の状況にある。こうした時代にあっては、従業員の管理のために精神的結束をはかる方策が必要となる。
●鍋島直茂の「一言の情」に象徴される上司と部下との心のふれあい、会社に対するロイヤリティを日ごろからつちかっておけば、それが、苦況を乗り切る力になるのである。