神経質な男は大きく伸びる

●名選手、必ずしも名監督にはなれない。選手と監督とでは、やることがまるで違うのだから当然である。

 

●川上は首位打者、ホームラン王、打点王に何度も輝いた名選手であるとともに、ジャイアンツのV9を果たした名監督でもある。稀有のリーダーといえる。

 

●川上はジャイアンツの選手を徹底的にしごいて戦う集団に作り上げた。そしてさすがに個々の選手の性格や性質を的確に見抜いている。

 

●川上によれば、王貞治や張本勲、金田正一らが神経質であったという。王、それに張本はなるほどとも思えるが、あの合法磊落そうな金田も神経質であったとは意外な感がする。

 

●神経質な選手はどうして伸びるのか。川上によれば、たとえばホームランを何試合も連続して打っても、神経質な選手は、
「これでスランプとは縁が切れた」
というふうには安心しないからである。つねに自分の能力や技量に対して神経を向けているので、努力を怠ることがない。

 

●さらに大事なことは、そうしたタイプの選手はいつも、より以上の記録を目指して、たえず一人でコツコツ練習する。そのおかげで、技術がいつまでも錆びつかず、大記録達成につながることにもなるのである。

 

●王貞治の八百六十八本のホームラン、金田正一の四百勝も神経質なところから生まれた大記録といえる。

 

●ビジネスマンでも、豪放磊落な人のほうが周囲の人の人気を集めやすい。しかし、長い間つき合ったり、また一緒に仕事をやっていく上では、そうしたタイプの人は、いつまでたっても進歩が見られなかったり、時に大ポカをすることがある。総じて安定感がなく、安心できない。

 

●われわれは神経質なのをとかくマイナスに評価するが、決してそんなことはない。じつに大きなことをやりとげる可能性をはらんだタイプなのである。