競争と協調という二律背反の姿勢を状況に応じて使い分けることだ
●この言葉のように、金尾実は競争と協調を状況に応じて使い分けて、ビジネス活動の局面に対処している。説得に当たっては、協調の姿勢で接する。それによって相手の心は動きやすくなる。
●秀吉の知恵袋、竹中半兵衛も、競争と協調を局面によって見事に使い分けた人物である。
●半兵衛は美濃の斎藤竜興の家臣であったころ、竜興の暗君ぶりに愛想をつかして、近江の山に引きこもってしまった。秀吉は、半兵衛の武略が山深く埋もれているのを惜しみ、何度も足を運び、三顧の礼を尽くして軍師に迎えたのは有名な話である。
●その半兵衛を秀吉が知恵袋として愛し、半兵衛の作戦を重く用いるのをおもしろく思わない武将が少なからずいた。
●そうした武将の一人が、ある合戦のおり、故意に半兵衛の布陣にそむいた。半兵衛は、その武将の陣に馬を走らせると、にこやかにいった。
「見事な布陣に感銘しました。わが殿も半兵衛の布陣よりよい、と喜ん
でおられます」
●その武将は、気勢をそがれたうえ、つい半兵衛のおだてに乗ってしまった。
「誠のことか」
「うそではありません。殿はあなたが自分の手柄を人にゆずってまでも、わがほうの勝ちを願う心がけは立派なものだとおおせになっていました」
●相手は沈黙した。表情が内心の当惑をはっきりと映し出している。
「私の布陣によれば、あなたは先鋒として敵陣に突入し、手柄を立てられる位置にあった。それを後方に退いたため、手柄は立てられなくなりました。しかし、味方全体の陣形からすれば、このほうが安定しています」
●相手は、思惑どおり、半兵衛の布陣にしたがった。手柄を立てられる陣を捨てたといわれて不安になったのだ。協調の精神で臨み、まずほめて、そのあとで不安感と功名心をたくみについて相手を動かした名説得である。