人間というものは、困難にあえばあうほど新しい力が湧いてくる

●ジョン・ワナメーカーは20世紀初めのニューヨークに現代的なデパート商法を確立し、郵政長官まで務めた実業人だが、出身はフィラデルフィアで、スタートは地方の小さな書店の店員からである。

 

●この店で商うことの面白さを知った彼は、二十三歳のときに義兄弟と一緒に洋服店として独立する。もともと商才にたけていた彼がうちだしたのは「高級男子服」の専門店で、たちまち大当たりとなった。南北戦争後に大陸横断鉄道が完成して、男性が服装にも気を使うようになったころである。ワナメーカーの時代への対応は見事だったといえる。

 

●この最初の商法が、一部では百貨店の先駆とみられているのだが、1877年に開店した店は各階ごとに専門店を集めるスタイルで、文字どおり今日のデパートメントストアそのままである。

 

●フィラデルフィアの実業界で誰知らぬ人もないまでに彼の名は有名になった。アメリカは対イスパニア戦争に勝ち、カリブ海方面への進出が始まるとともに、ニューヨークの商業都市としての充実が経済界のテーマになる時期だが、ワナメーカーはすかさず機運をみてとって1896年にニューヨークに進出してくる。

 

●このとき、彼が考えたのが新聞広告による開店の広告、社員募集の広告などで、この方法は以後今世紀の広告宣伝の大きなパターンになっている。今ではデパートなどが催し事を広告することなど誰もあやしまないし、ごく当然の事として行われているが、19世紀末には画期的なことだったわけだ。

 

●日本の大都市に高層建物のデパートが出現したのは、アメリカよりはるかに遅れて大正期に入ってからのことである。しかも広告の全面的利用となると、ワナメーカーに遅れをとっているのは、当時の社会事情からみて仕方がないことかもしれない。

 

●ただ今日の経済界の対応を考えると必ずしもアメリカに劣るとはいえないが、先駆者ワナメーカーの残した影響は大きいのではないか。