人おのおの能、不能あり、われ孔明たるあたわず、孔明われたるあたわず
●伊藤仁斎のこの言葉に出てくる孔明とは、中国の三国時代に劉備に仕えた名宰相、諸葛孔明のことだ。いわんとするところは、人には長所、短所がある。その長所を生かしていくことこそ、人を生かし、自分も生きる道である、ということだ。仁斎の書物を通して師である孔子も「備わらんこと一人に求むることなかれ」と諭している。
●だから、人を使うときには、それぞれその人の得意とするところを見つけ、その得意とするところを生かしていくのがよい、というわけだ。興銀元頭取河上弘は、「私は興銀に入って間もないころだが、長所ばかりの偉い人はいないかと探し求めたが見当たらない。父にそう感想をもらした手紙を書いてやったら「貴様はバカだ、神様以外に短所のない人間がいるか」と返事が来た。その後、僕の部下に誰にでも嫌われる男が来たが、よく働いた。人は悪いところを捜さず、いいところだけ結集すれば仕事の能率が上がる」と、部下を観察することで、人使いの要諦を学び取った。
●その長所を生かして使うにも、住友の二代目総理事になった伊庭貞剛のように、信頼してまかせる、というやり方で組織の活性化をはかる方法もある。
「人というものは才能を信頼してやれば、その信頼に答えようと、
全知全能を発揮するものだ」と伊庭はいう。
●だから、この男は使えるが、あいつはだめだ、などという割り切り方は、人の上に立つ者のすべきことではない。自分は部下の長所、短所を決めつけてかかっていないか、一度、反省してみることだ。そうすれば、部下のなかに、今まで気づかなかった長所を発見することもできる。部下のほうも、自分でも気づかなかった能力を発見して、仕事にうまく生かしてくれる上司がいれば感激し、張り切って働くにちがいない。
●そうなれば、手持ちの人的資源を新しく開発したことになる。そのことは、とりもなおさず本人の管理力を高めることにもなるのだ。