模範は訓言よりも力強い

●くどくど口で説明するよりは、まず実行してみせること、模範を示すことが統率の要だと教える。「率先垂範」ということなのだが、セシルの名言には他にも「酒に酔った人を見せることは、古来その旨意によってなされた最上の説教よりも有効である」というのもある。

 

●弁説で酒の害を人に説くよりも、酔っ払って下劣なことをやっている人間を見せることのほうがよほど効果的だ。人は酒の飲み方を考えるだろうし、その害もよくわかる、ということ。

 

●セシルがイギリスのエリザベス一世時代の政治家であることが、彼の名言をいっそう面白くする。1558~1603年に在位した
女王エリザベス一世は、いうなれば「栄光の繁栄」をイギリスにもたらした歴史的な女王。

 

●即位すると、女王が新教徒だったことから旧教国スペインとの対立を明確にして、当時「無敵艦隊」を保有して莫大な富を海外の植民地からかせぎまくっていたスペインに戦いを挑んだ。

 

●冒険航海者ドレークらが率いた船団にスペインの商船隊を襲わせては略奪をくりかえしたのだが、なんとこの「海賊船団」のスポンサーが女王だったのだから、16~7世紀のイギリスはすさまじい。

 

●キャプテン・ドレークは、1580年マゼランについで史上第二の世界周航に成功して、莫大な財宝を持ち帰ったとしてエリザベス
女王からナイトの称号を受け、貴族に列せられているのだが、彼の実態は「海賊」である。

 

●イギリスとスペインの関係は悪化してついにはスペインのフェリペ二世が「無敵艦隊」を英仏海峡に向かわせて、イギリス上陸を狙うのだが、この大艦隊に勇敢に立ち向かったのもキャプテン・ドレークらの荒武者で、スペイン艦隊の大敗北に終わってしまう。

 

●以来、スペインの海上権はイギリス船団にとってかわられ、再び立てなかったのだ。こうした時代の政治家セシルが「模範は訓言よりも力強い」と教えるのは意味深い。