人のやることと同じことをやっていたのでは勝ち目はない

●「初恋の味」のキャッチフレーズで知られるカルピスが、三島海雲によって国分商品から発売されたのは、1919(大正八)年七月のことであった。

 

●その成分は、おなじみの乳酸菌。この乳酸菌は、ビフィズス菌と並ぶ腸内の有用菌で、現代人の健康づくりに役立っている。カルピスは、健康食品の先駆けとなったといえる。

 

●三島は、カルピスをつくりあげるまでに、乳製品を何度か手がけた。三島が大陸生活をしていたころに、蒙古民族の部落で味わった甘酸っぱい乳の味覚が、つねに郷愁のように舌によみがえってくるためであった。
(なんとかして、あの味を事業化したい)

 

●生来、病弱であった三島は、その甘酸っぱい乳を長く飲み続けていると、体の調子がよくなることを知っていた。

 

●最初はヨーグルトのようなものをつくった。味も栄養もよく、飛ぶように売れたが、原料になるクリームが不足して数ヶ月で行き詰まってしまった。

 

●次に乳酸菌入りのキャラメルを発売して失敗したが、夢は捨てきれず、新しい乳酸菌飲料を開発しようと決意した。

 

●あるとき、脱脂乳に砂糖を加え、一昼夜してから飲んでみると、うまかった。さらに、二、三日おいてみた、味のよさはさらにま
していた。
(うまくいくぞ!)

 

●三島は、それにカルシウムを加え、乳酸発酵して完成させた。新しく生まれた乳酸飲料を、三島は「カルピス」とネーミングし
た。カルシウムのカルと梵語で「この世で最上の味」を意味するサルピスのピスを取って合成したものだ。

 

●三島は、ひたすら大陸で味わった甘酸っぱい味を追いつづけた。それが独創となって事業を成功させたのである。タイトルの言葉も、そうした三島の企業家精神から生まれたものだ。

 

●三島はカルピスの製法上の特許を取らなかった。類似品が出れば出るほどカルピスの味がきわだち、ファンが増えると読んだのである。