参謀は有能でなければならないが、あまり雄弁なのは困る
●経営者の情報力は、情報参謀の選び方で大きく左右される。名経営者とうたわれる人は、この点も心得ていて、優れた情報参謀を選ぶ。どのような人物が適任か、松下はタイトルの言葉につづけて、
「参謀というのは訥々と、思惑をいっさい入れず、強調もせずに、ファクトそのままを正確に伝える人がまず望ましい。そして事と次第によっては、直言、諫言も辞さない勇気を持った人物が最高の情報参謀というべきだろう」
といっている。
●一般に情報参謀といわれる人々は、秘書、広報、社長室、企画、総務などのセクションの長である。こうした第一線の情報担当者のところには、社内外の重要な情報が飛び込んでくる。
●その際、何をおいても第一報を「ファクトそのままに正確に」経営者のもとにもたらすべきである。フォローはそのあとでよい。そして、フォローを始めたら中間報告を適宜しなければならない。
●口頭の場合でも、文書の場合でも「思惑をいっさい入れず」報告する必要がある。史実と思惑が入り混じって報告されると、経営者は判断、決断を誤るおそれがある。自分の分析や評価は、「きみはどう考えるか」と、個人的な意見を求められてから言えばよい。とりあえずは事実関係のみを素材情報として知らせるべきである。
●経営者のほうとしても、この点を明確にし、事実と意見がはっきりと区別されて伝わってくるよう、日ごろから第一線の情報担当者である情報参謀たちに、周知徹底させておくべきである。
●優れた情報参謀に要求される「事と次第によっては、直言、諫言も辞さない勇気」についてだが、こちらのほうはなかなかむずかしい。事が経営者や企業の浮沈にかかわる重大事であればあるほど、つい自分の利害が頭をもたげてきて、逃げ腰になるからだ。
●利害を考えず、経営者のためを思って直言、諫言をあえてしてくれる情報参謀は、ビジネスを離れて経営者と苦悩をともにできる友人でもある。経営者としては、そうした情報参謀を起用することが、自分や組織の方向を誤らせないために、肝要なのだ。
●また、そうしたわが身の保身を省みることなく、経営者に勇気を持って直言、諫言してくれる情報参謀を得るには、経営者自らが、人間的魅力を備えた、誠実で信念の強い人物でなければならない。