戦術的には妥協するが、基本戦略では決して妥協しない

●中内功のいう基本戦略とは「流通革命論」である。その骨子は次の通り。

 

●流通革命とは、流通支配権を流通経済の担い手、すなわち流通業者に奪い返すことである。何のために? 生活者のために、だ。物を買う権利、その主権は生活者のものであらねばならない。生
活者および生活者に信頼された流通業者が価格決定権を握ること、つまり生活者主権体制の確立----これが中内の主張である。

 

●これについて「決して妥協しない」とどうなるか?
当然メーカーとケンカになる。「ダイエーの歴史は戦いの歴史」「戦う商人」と中内は自らいう。

 

●中内ダイエーの戦いは、中内の「基本」とメーカーや問屋などの「基本」とのぶつかり合いである。洗剤なら洗剤を五円高く売るか安く売るかといった相対的な戦いではなく、売値設定権を賭けた絶対的な戦いといえる。ダイエー側にとってもメーカー側にとっても、経営の根幹に触れる大問題だ。

 

●中内は数多くの戦いの歴史を持つが、基本戦略は一貫している。すなわち流通革命論というドスを相手の喉元に突きつけることだ。喉元とは「再販制」であり「旧来の商習慣」であり「縄張り」で
あり「出店反対運動」であり「法規」である。

 

●中内は三十八歳のとき流通革命論を唱えて以来、これをエンドレステープのように何百回、何千回と繰り返して主張してきた。

 

●「とにかく止まったらダメ。黙っていたら忘れられる。ちょっとおとなしくしていると、あいつもうやめよったんとちゃうか、年とったんやないかと思われる。だから私は色褪せた旗ではあるけれどもこの旗を押し立てて『戦うダイエー』の存在証明を休むことなくやっていくつもりだ。ああ、シンドかった、これでゆっくり休めるわ、と心から思うのは棺桶に入ってからだと覚悟している」

 

●妥協しない男はこういうのである。