日々正直に行動することが成功に達する最も確実な道だ

●昭和三十年代のことである。Fはデパートの、ある商品の仕入れ責任者であった。このポストは「打算」なくしては務まらない。彼も長年の職業的訓練で技術としての打算は身に付けている。が、根が優しく潔癖で信義に厚い男だ。このような人間的美点を持つゆえに、彼は仕事上で苦悩することが多かった。

 

●彼はある日、納入業者のパーティーに出席した。その席で一人の男を紹介された。その男は数年前この業界に参入した男だが、一味違ったアイデア商品で急激に台頭しつつある。「まもなく貴店の○○町支店がオープンしますね。そのときはぜひ当社の商品を置かせてください」とその男はいった。「ええ、ご縁がありましたら」とFは軽く返した。

 

●どちらにとっても商談などというものではない。名刺がわりの世間話といった程度の会話を交わして、その場は終わった。

 

●それから一ヵ月後、Fは突然その男の訪問を受けた。
「先日お願いして快諾をいただきましたので、商品の準備を進めてまいりました。ようやく整いましたのでよろしくお願い致します」
Fは仰天した。快諾などした覚えはない。パーティーで一度会ったきりで、その後は電話一本のやり取りもない。Fは腹が立つよりもあきれた。同種の商品はもうC社のものを入れることになっている。

 

●その男の一方的な申し出など言下に断ってもいいのだが、心優しいFにはそれができない。だから悩むのである。彼は情理を尽くして、その男の商品を入れるわけにはいかない旨をていねいに説明した。
が、彼はいっこうにひるまない。自信満々で押してくる。結局、Fは奇妙な、そしてきわめてきびしい条件を課して、その商品を入れてやることにした。開店から一週間の売上げを見て少ないほうは商品を引き上げてもらう、というもの。

 

●結果はその男側の圧勝だった。このような「妙案」をFはしばしば考えつく。彼は上司にも出入り業者にも評判がいい。

 

●ちなみに、その男とは、当時の和江商事、今のワコールの塚本幸一社長である。

 

●タイトルの言葉は、第二次大戦時のイギリス首相チャーチルが言ったもので、ビジネスにも通じるところがある。正直と誠意はしばしばかけひき以上の結果をもたらすというわけである。